亞的呼聲 Adiffusion

中華と酒と銭湯と

中国の無人コンビニ(1958年)

 1958年7月10日『大公報』より。大陸の新気象を明るく紹介するのは今も昔もいかにも『大公報』といった感じがする。例によって入江啓四郎『支那新聞の読み方:中国報紙研究法』(タイムス出版社、1935年)方式で読んでいった。

無人售貨商店 佛山市設有一間」『大公報』1958年7月10日

【文例】

無人售貨商店 佛山市設有一間

  這是一間無人售貨商店,它開設在佛山市的市中心區。
  店裏的商店有六百多種,都陳列在不加封閉的櫃檯上和貨架上,可以讓顧客隨手拿到。
  這裏沒有售貨員,只設了一個服務台。顧客要買什麼,按價格牌上標出的價格自動付款後,自行取貨。如果需要找贖,也由顧客打開收款箱,自行找贖。服務台裏有一位工作人員,他的工作是替顧客包紮貨物,或是幫助購物較多的顧客計算貨價。
  一間這樣的商店通常需要三個以上的工作人員,現在只要有一個服務員就能應付裕如。而顧客也感到便利,一來到就能選購到合意的商品。
  這間商店開幕還不到一個星期,人們給了它一個光輝的名稱:共產主義風格的商店。

【文法】

・只要⋯⋯就/便/還/總~~:⋯⋯しさえすれば/である限りは〜〜である

【語註】

・找贖jáau suhk / zhǎoshú:お釣りを渡す
・包紮bāau jaat / bāozā:(商品を)包んだり縛ったりする
・應付裕如ying fu yuh yùh / yìngfu yù rú:ゆとりを持って対応する

【譯】

無人売店 仏山市に一軒登場

 ここは無人売店で、仏山市中心部に開店したものだ。
 店内には600種類以上の商品があり、閉め切られていないカウンターや陳列棚に並べられているため、客はすぐに商品を手にすることができる。
 この店には販売員はおらず、サービスカウンターがあるだけだ。買いたいものがある時は、ボードに書かれた値段に従って自分で支払いを済ませ、商品を持っていく。お釣りが必要な場合は、客が自ら料金箱を開いてお釣りを取り出す。カウンターにはスタッフがいて、客のために商品を包んだり、たくさん買い物をした客が商品の値段を計算するのを手伝ったりするのが仕事だ。
 このような店では通常3人以上のスタッフが必要だが、今では1人だけで余裕を持って対応できている。これは客にとっても便利で、来店すればすぐに欲しいものを購入することができる。
 この店は開店してまだ1週間も経っていないが、人々はこの店に「共産主義スタイルの店」という輝かしい名前をつけた。

【解說】

 無人店舗Unmanned storeは店内に従業員やレジ係がいない店舗を指す。スマートフォン・キャッシュレス決済の普及によって2010年代から試みられ始め、中国では2017-18年に一瞬で全国各地に展開され、そして一瞬で衰退した。

toyokeizai.net

決済が煩雑だったり、店内が殺風景だったりしたため、購入体験が芳しくなかったことが衰退の理由であるらしい。

 とはいえ、コロナ禍を通じて非接触というニーズも確立されたし*1、今年には香港国際空港にできた無人コンビニのように利用時のストレスを減らしていく仕組みも出来つつあると思うので*2、以前のバブルのような展開の仕方はないまでも、今後は物珍しさとかではなく普通に便利な技術として色々なところで使われていくのではないかと思う。

mounungyeuk.hatenadiary.jp

 さて、今回取り上げたのは「無人」店舗についての記事だが、紹介されているのは1958年の中国大陸のそれである。写真を見る限り取り扱っている商品はいわゆる雑貨店のそれであり、ほぼほぼ無人コンビニのような存在だ。なんて先進的なんだろう……まあそんなわけはなくて、普通に辦館を野菜の無人販売所方式で運営しているだけである。スーパーマーケットが席捲している現在とは違って、対面販売ではない「セルフサービス方式」というのはかなり画期的で物珍しかったのだろうと思われる*3

 1958年は、前年までの反右派闘争で権力を確立した毛沢東が大躍進を推し進めていく時期にあたる。農業・工業生産の増加を目指したこの政策は、翌1959年からの全国的な大飢饉の発生と、毛沢東の一時的失脚という結末に終わる。

 この時期の雰囲気はよくわからないが、仏山のような広東省の都市部においては、この時期に無人販売所を置いたとしても問題なく運営できていたということだろうか。どんなものが販売されていたのか記事には記述がないのでよく分からないが……性善説で運営されているというところが「共產主義風格」なのだろう。眩しい美名だ。

 もっとも、記事を見ると「無人」では全然ないということもわかる。サービスカウンターがあって、ここに一人が配置され、商品の包装や会計補助を行なっているようだ。セルフレジでもたつく老人を店員さんが手伝っているやつの1958年版なのかもしれない。支払いを誤魔化す人間を見張る役目でもあるのだろうし、この点では天眼(監視カメラ)の1958年版でもある。

 



*1:黄敬惟「无人零售越来越多」『人民日报海外版』2023年02月27日

*2:香港空港の無人コンビニでは、客はクレジットカードを改札に翳して入場する。この時点でdepositが徴収される。陳列棚から商品を取って出口に向かう間、監視カメラなどの情報を基にして価格計算が行われており、再び改札を通って出場する際に自動的に決済が済まされる

*3:売り場にスタッフが居らず、客が価格表示を参考にしながら陳列棚から商品を手に取り、レジに持って行くスタイルのこと。スーパーマーケットとは「セルフサービス」の店である – ニッポン放送 NEWS ONLINE