亞的呼聲 Adiffusion

中華と酒と銭湯と

香港無靚女?(『華僑日報』1960年6月23日)

chiamin0513的部落格」より転載

例によって入江啓四郎『支那新聞の読み方:中国報紙研究法』(タイムス出版社、1935年)方式で。

mounungyeuk.hatenadiary.jp

【文例】

香港無靚女?  —— 德製片家來港選用華籍女主角 無適意者卒以日女代中國女郎(『華僑日報』1960年6月23日)

西德製片家胡史華斯氏,於兩星期由曼谷抵港,渠在留港期間亟欲在香港物色一位中國女郎任女主角港拍攝新片「有鹽味的水」不料經過兩星期努力,竟不獲一位中國女郎適合表演片中女主角者。因此渠從日本方面聘來一位日本女星,以飾演中國女郎云。該位製片家前日已乘印度國際航空公司飛機飛返慕尼黑,該德片準備本年十月即在香港開鏡,至於片中男主角即由德人担任。又聞該片外景將在香港拍攝,內景則在日本攝製,預算該新片來年可在香港放映云。

【文法】

・卒jēut:[古]終於に同じ。

・渠kéuih:佢に同じ。三人称単数形

・不料bāt liuh:[書面語]點知に同じ。冇預料到

・云wàhn:この時期の新聞に多い。文末に用いて、伝え聞いた内容が終止することを示す

【語註】

・女郎néuih lòhng:[書面語]若い女

・慕尼黑Mouh nèih hāk:ミュンヘン


【譯】

香港に美女はいないのか? —— ドイツ人プロデューサーが香港で中国人ヒロイン候補を探すも、適任者が無く日本人に代える(『華僑日報』1960年6月23日)

西ドイツの映画プロデューサー、ウォルフ・シュワルツ氏が2週間前にバンコクから香港に到着した。 香港滞在中、彼は新作映画『塩味の水』のヒロインを演じる中国人女性を必死に探したが、2週間にわたる努力にもかかわらず、この映画の主役にふさわしい中国人女性は見つからなかった。そこで、氏は日本から女優を呼んで中国人女性を演じさせるという。このプロデューサーは一昨日、エア・インディア・インタナショナルの飛行機でミュンヘンに戻った。このドイツ映画は今年10月から香港で撮影が始まる予定で、ドイツ人俳優が主役を演じる。また、この映画の屋外シーンは香港で撮影され、屋内シーンは日本で撮影されるという。来年には香港で新作が上映される見込みだ。

【解說】

現代でもあまりに多くの場面で消費されているテーマが見出しになっていたのでつい読んでしまったが*1、映画の話題だ。『慕情』(米、1955年)が代表的だが、戦後西側世界では香港を舞台にした映画が多数撮影された*2。白人男性が香港で美しい華人女性と出会うが……というメロドラマだ。記事中の映画人はおそらくWolf Schwarzで、件の映画は『Bis zum Ende aller Tage(英題:Girl from Hong Kong/中題:香港之戀/邦題:遙かなる熱風)』(西独、1961年)だろうが*3、記事にあるタイトルとは大きく異なっている。wikipediaにはこの年の暮れに成功を収めた『スージー・ウォンの世界』(英米、1960年)に部分的に触発されたとあるが、この記事は封切り前のものである。

日本から抜擢された女優は東宝女優の小林映子で、60年代初頭に幾つかのヨーロッパ映画に出演、海外でのキャリアとして最終的には『007は二度死ぬ』(英米、1967年)にて浜美枝とともにボンドガールを演じることになる。彼女が演じる日中混血のダンサー、アンナ・スーは、主人公とともに西ドイツの寒村に行くものの、差別に直面し最終的に男の許を去ることをなる、らしい。

以下のサイトから冒頭数分のみ高画質で見ることが出来る。当時の香港の風景や、ヨーロッパ人から見たイメージなどが見られて面白い。バーのホステスのシーンは、この記事を読んでから見るとちょっと面白い。

www.filmportal.de

DVD化されたらしく、予告編もYoutubeに上がっていた。

www.youtube.com

*1:例えば、BBC 中文網 | 港台消息 | 香港無“美女”?

*2:Thomas Y. T. Luk, James P. Rice, Before and After Suzie: Hong Kong in Western Film and Literature, Hong Kong: CUHK Press, 2002という研究書が新亜から出ているらしいが、未読

*3:それぞれの訳題になんの関係性もない。こちらによると、本映画は日本でも公開されていないそうである。それぞれいつ付けられたものなのだろうか。