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中華と酒と銭湯と

入江啓四郎『支那新聞の讀み方—中國報紙研究法—』(タイムス出版社、1935年)

 「読書メーター」というものを、大学入ったあたりからやっている。読んだ本や読みたい本などを記録し、感想も書き留められる。読書ノートの代わりに使っていた。一ヶ月の読書量が、冊数・ページ数で出てくるのも、先月より多く読んでやろうという気持ちにさせられる。もっとも、感想はめんどくさくなって書いていないものも多いのだけど…
 この読書メーター、一時期はアドレスが完全にオーナーの名前になっていたり(理由は不明)、スマホ用アプリの仕様が数年間全く更新されないなど、最悪の使用感だった。とはいえ先月あたりにアプリは大幅アップデートがなされ、非常に使いやすくなったと思う。最近自分の周りのユーザーがほとんど更新しないので心配だが…(サービス終了すると読書記録が)

bookmeter.com

 さて、今年も終わりなので色々と今年読んだ本を見返しつつ、買ってよかった、読んでよかったものを見ている中で、取り上げておきたいものがあった。標題にある

入江啓四郎『支那新聞の讀み方—中國報紙研究法—』タイムス出版社、1935年

である。これは神保町の叢文閣で2,000円とかだった、昭和12(1937)年12月にこの本を購入したU田さんのサインも付いている。

支那新聞の読み方―中国報紙研究法 (1935年)

支那新聞の読み方―中国報紙研究法 (1935年)

 

  この本、意外と今でも使えるのではないかと思うし、レビューやっているブログ等も見当たらないので*1、本記事ではこの本の特徴を紹介をしながら色々考えていきたい。が、すでに年越しそばで日本酒1合くらい飲んでしまっているので本年中に書き上がるかはわからない。

著者:入江啓四郎(1903 - 1978)

鳥取県西伯郡春日村(現・米子市)生まれ、上海で育つ。1919年豊浦中学校中退。1921年日本中学校卒業。1923年第一早稲田高等学院卒業。1927年3月、早稲田大学法学部卒業。1927年4月、ジャパンタイムズに記者として入社。その後、日本新聞連合社記者を経て、1936年1月、同盟通信社に勤務、1937年に同社パリ支局長。1939年に同社ジュネーヴ支局長。『ヴェルサイユ体制の崩壊』全3巻を上梓する。1945年同社編集局外信部長。1945年、時事通信社編集局外信部長。1946年、同社時事研究所長。1953年、愛知大学法経学部教授(新聞学・国際法を担当)。1957年成蹊大学政治経済学部教授(国際法を担当)。1962年、同大学政治経済学部長(1963年まで)。1965年、成蹊大学退職。1966年、早稲田大学法学部客員教授国際法を担当)。1975年、早稲田大学定年退職。日本ジャーナリスト専門学校専任講師(1976年まで)。1976年、創価大学法学部教授(国際法を担当)をつとめた。1976年11月3日、勲三等瑞宝章受章。1978年、創価大学在職中に逝去。国際政治学者・入江昭は息子。——入江啓四郎 - Wikipedia

wikipedia早稲田大学図書館報『ふみくら』、日外アソシエーツ『20世紀日本人名事典』(2004年)あたりを参照しているらしい。著作目録を見ると、本書が入江の初めての著作であるということ、その後のキャリアの中では国際法・国際関係が主要な分野となっていったことがわかる。
 本書は上海で育った「支那通」の入江が、その活躍の舞台をヨーロッパへと移す以前に著したもので、ジャーナリストとして当時の中国語新聞の読み方を指南する実用書として位置付けられるだろうか。

構成

 入江は自序で「本書は専ら中国研究を中心課題として、支那新聞の読み方を練った」「語学研究の一般的約束を遵守して」、「語学上の注意を以って編集に当た」るとともに、「支那研究入門、支那研究の一助」としての性格から解説にも力を入れたとしている。実際、本書は政治、経済、社会、随筆、広告各編に【文例】となる記事を掲載した上で、【文法】、【語註】、【訳】、【説解】の各項で語学、内容面の解説を加えている。文例の記事は主に『大公報』(天津)、『申報』(上海)、『新聞報』(上海)から引かれたものである。
 一通り読むと、1930年代当時の様々なニュースが入ってきて時代感覚とでもいうべきものをなんとなく感じることができる。勿論、【説解】における入江の理解は当時の日本人の限界があるが、それでも比較的客観的な叙述に努めているように感じられる。政府公告や白話体の随筆、公告で全く文体が異なることもわかってそれぞれ勉強になる。また、巻末付録では当時発行されていた中国紙の一覧と発行部数、通信社、当局の新聞統制や「小報」というゴシップ主体のダブロイド紙についても概説がなされている。

雑感

 (この時点でウイスキーをたくさん入れてしまっています)一通り読んでみて、この構成に何か物凄い見覚えがあったのだけど、これ多分受験期にそこそこお世話になった『速読英単語』にめっちゃ似ている。ページ構成も見開きで対照訳になっており、これを繰り返し音読していれば民国期の中国語力はバッチリつくと思われる。なお、僕の以前に本書を所有していたU田さんは開始数ページで挫折したことが、本書の書き込みから察せられる。 

速読英単語1必修編[改訂第6版]

速読英単語1必修編[改訂第6版]

 

  結構語彙や発音は現在と異なる所も多いように見受けられ(もっとも、本書の発音表記はウェード式なので僕の誤りもあるかとは思う)、面白い。やはりどの地域で語彙を収集したかによって、当時の辞書の出来は大きく左右されたんだろうなあ。
 あと、こういう参考書って今だと意外にない気がする。Amazonで調べてたら2, 3冊はあるようだが、最近感じるのは同じ論説体、新聞記事であっても大陸、台湾、香港のそれはその使用語彙を含めて大きく異なるということだ。体感だと港>台>>>中の順番で難解な気がする。香港の場合は通常の中文に加えて、芸能関連や三面記事になると、『明報』のような高級紙であっても広東語での記述が増えるということもある。この辺り、文法や内容の解説が多少雑でもある程度まとまった量の記事数が確保できていれば、参考書として需要があるような気がするので、誰か作って欲しい……
 自分も何か気になる記事があった時は、この構成をパクりつつ、本ブログで紹介していきたいと思います。

*1:全く同じ年に清水元助、有馬健之助『支那新聞の讀み方—時文研究—』(外語学院出版部、1935年)というものがあり、こちらについては同様に神保町で発見した方のブログ記事があった。出版が近いので、もしかしたらどちらかは便乗本なのかもしれない。満洲事変が一応の決着を見、日華事変が勃発するまでの、日中交流が最後に盛り上がった時期にあって、同様の書籍は沢山出ていたことだろうし、また日華事変以降は一層需要が高まったことだろう。尚、有馬は1940年にも同様の『支那時文研究』なる本を出版している