亞的呼聲 Adiffusion

中華と酒と銭湯と

自家製臘肉と頂き物の臘腸と露營のこと —— 臘肉を作る:後編

臘肉再チャレンジ

 以前に臘肉(ラープヨッ)の記事を書いたわけだが、この記事で作った分は漬け汁の構成や肉の選択において改善点が多数見受けられたので、直後に第2回目の臘肉作成に着手していた。

mounungyeuk.hatenadiary.jp

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というわけで、用意したものがこちら。

  1. 黒糖⋯⋯前回老抽(色付け用のたまり醤油。辛くない)を使用した上でさらに深い色に仕上げたいと思ったので、今回は黒糖を使用することにした。これは本当に大事だと思う。よりちゃんとしたレシピではきび砂糖や黒糖をブレンドして使う。
  2. 玫瑰露酒⋯⋯ハマナスの酒。北方で作られているが、広東ではこれを肉の香り付けに多用する。肉の後味にこの酒の香りがするだけでかなり本格感が出る。少ない労力で本格感を醸し出したい人間としてはこれは絶対に使用すべき材料だった。自分は山下町の酒屋で購入。中華街、物産店になくても老闆娘に尋ねると「何処其処にならあるよ」と紹介してくれるので本当に温かい街だと思う。
  3. 皮付きバラ肉⋯⋯これは最終的には好みなのだが、やはり皮付きのテクスチャー感があった方が現地感がある。肉に関しては鮮度や脂肪分の比率も重要なので、拘ろうと思うといくらでも拘れる要素だが、自分は綱島ハナマサでチリ産冷凍肉を購入した。ギュッと直方体にされていたのが解凍が進むうちに伸びていったので、皮の微妙なシワにしっかり浸けダレを馴染ませる必要があった。あとやはり、安いからか脂肪分が多い。

その他材料や手順に関しては、細部を大分端折ったりしているが概ね以下のレシピを参考にしている。この記事はすごい:

tojonoriko.com

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一日漬けただけで色味が全然違うのが分かる。この透き通った深さよ……丸二日漬けていよいよ干していく。

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 ベランダ生肉干し太郎。皮、脂肪、筋肉の層がくっきり浮き上がってきて大変美しい。前回の経験から我が家のベランダに烏は寄り付かないことがわかったので、初回だけ床にドリップを受ける紙を敷いておき、以降はこのまま自然乾燥、朝吊るし、日の入りとともに取り込むのを繰り返す。次第に透明感が出てきて、鉱物的な美が立ち現れてくる。

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完成した。肉は紫がかった海王石、皮は透明感のある琥珀、脂肪は玉髄。割と適当に作ったにもかかわらず思った以上に上手くいってしまい、なんだか食べるのが勿体無く感じてしまう。

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勿体無くても使わなければ愈々勿体無いので、菜香新館行った時に買った臘腸で煲仔飯作ったり、スープに入れてみたりした。この煲仔飯はかなりうまくいき、窩蛋の火の入り方も、おこげの出来具合もかなり自分好みだった。煲仔飯豉油(煲仔飯にかける醤油ダレ)のレシピはこちらを参照した:

www.memorandom.tokyo

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この焦げを、見よ

 そうこうしているうちに御自宅で毎年臘腸を製造しているすごい人から何本か分けていただく機会があり、臘腸臘肉の臘味二大巨頭揃い踏みのレシピで料理ができる環境になったので、煲仔飯をやったり蒸飯をやったりしていた。

露營煲仔飯 

 7月になると相変わらずダラダラ飯屋だけ閉まっている状態にうんざりしてしまい、人と会って飯食いたい欲が募ってきた。結果数名で、オープンエアーで料理をやることになった。

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 関東某所、そこは炭火で叉燒や家鴨が焼かれる異常な空間だった。自分は基本的にお客さんだったので肉が焼かれるのをぼんやり眺めながら絲襪奶茶をストローで啜っていたのだが、何か持っていければと考えていたので野外で煲仔飯をやってみることにした。とはいえ家と違って土鍋は無い。

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 ここ数年日本ではキャンプが再加熱していたらしく、最近はアルミ飯盒が安くどこでも買える(100均やホムセンにも置いてる)状況になっていた。人口が増えたことで元々価格帯が謎に高かった業界に100均やアリエクの中国業者が参入し、暴力的に生態系を改変しつつある。流行とはすごいものだなと感じる。

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 今回の作戦はこの飯盒(メスティンと横文字で言うらしい)と固形燃料で米を「自動炊飯」している間に臘肉、臘腸、青菜(今回は小松菜)を投入し、煲仔飯とするものだ。煲仔飯豉油は友人宅に李錦記のストックがあるらしく、今回はそれを使用した。

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完成。サイズ的にかなりギチギチになってしまい、かなり見た目は悪かったのだが、食味は悪くなかった。卵もトロトロだし、米も長粒種でぱらっと炊けている。

 反省点としては、最後蒸らす前に底に焦げを作っておきたかった、というものがある。尤も、「自動炊飯」というものは固形燃料による加熱で焦げやムラを作らずジャポニカ米の炊飯が出来ることを謳っている方法だから、炊けた後に焦げを作りたい、というのはその理念に真っ向から対立したものではある。自分も実食するまで焦げると片付けしんどいな、と思っており、焦げを作るという発想が全く無かった。

鉄器のシーズニング

 釣りにしろキャンプにしろ、実際に行くより関連アイテムを見繕うのが楽しい、みたいなところが自分にはある。形から入る、という以前にそこで大分満足してしまう、というか。

 そういうわけで、春夏と色々と見て回っていたのだけれど、例えばアルミ飯盒の蓋で焼肉などやっていると金属に肉が張り付いてしまうのが気になっており、もっと蛋白質を焼くのに便利そうなものが欲しくなった。100均のミニ鉄板も、便利なのだとは思うけど、コンパクトすぎるのと汁が垂れそうなのと、あと薄すぎてあんまり鉄板の意味がないのでは、と思った。

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 雑誌付録のミニダッチオーブン。これ、深さがないから多分煮込み料理にはあんまり使えないとは思うけど、2面とも鉄板(というかスキレット)として使え、重ねると蒸し焼きもできるというのが自分のニーズに合っているので使ってみることにした。
 鉄器は錆びや焦付き防止のためにシーズニングという使い始めの儀式が必須で(中文だと「開鍋」という)、大まかに

  1. 使用前についてる防錆剤を剥がす
  2. 表面に油を塗布し煙が出るまで焼く、を複数回繰り返す(皮膜を作る)
  3. 香味野菜を炒める(鉄臭さの軽減)
  4. 水洗いして再び加熱し水気を飛ばし、再度油を塗布する

という手順を踏む。とはいえこれはだいぶ信仰みたいな感じがしており、例えば3の手順などは本当に効果があるのか大分疑わしいし(ちゃんと皮膜出来ていたら効果無くないか)、皮膜作りに使用する油の種類についても、オリーブを使うとも、いやいや乾性油(亜麻仁油や荏胡麻油など)がよいのだとも、色んな意見がある。乾性油の方が重合しやすいというのはあっても、煙が出るまで加熱して炭化させているわけだから、あんまり油ごとの固まり易さとか関係無いのでは、という感じがする。知らんけど。

 でも使っていくうちに黒々と育っていくというのは確かに楽しくはあります。割と使い捨ての石器時代から鉄器時代に移行した人類も、刃に油塗るのめんどくせえな、と思いつつ、こうしたメンテナンスに楽しみを覚えるようになっていったのだろうか。

 育てるためには頻繁に使用しなければならない。シーズニングがてら何か料理でもやってみようと思い、今回は「啫啫雞煲」にチャレンジしてみることにした。蓄熱性の高い鋳鉄なら土鍋に似た効果を発揮してくれるに相違無く、またサイズ的にも1人前としてちょうど良いので、既に家にある土鍋より手軽に料理ができるという利点がある。分量的にミスってもあまり痛くないし……

啫啫雞煲のレシピ(自己流)

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①薑(生姜)、大蒜、エシャロットを香りが出、軽く焼き色がつくくらいまで炒める(弱火)。本来は沙薑も必要なのだが、入手困難なので生姜で代用する。乾蔥頭(エシャロット)も、現地のはもっと紫がかっている気がする。(当然である。日本でエシャットとして売られているものはエシャロットとは全くの別物なのだ

分量は適当でいいが、生姜とエシャロットは多めに入れた方が良いと思う。個人的にはこの料理で大事なのは多分鶏肉の味付けよりこちらの香味野菜の香り。これがガツンと効いている方が絶対に美味い。

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②香味野菜を取り出し、数時間漬けておいた鶏肉を焼く(強火)。漬けダレについて、今回は塩少々、生抽2、蠔油(オイスターソース)1、老抽0.5、黑糖0.5、生粉(片栗粉)1、芝麻油少々、の割合で投入した。漬けダレは様々なレシピがあり、また老抽や蠔油はこれに加えず、次のステップ③で後入れする、黒糖ではなく柱侯醬を用いる、などのバリエーションがあるが、総じて茶色っぽく、甘じょっぱく味付けすることが目的だ。実際ここの味がどうであるかはあまり重要ではないと思われる(最悪焼き鳥缶でもよいのでは、と思ったりもする)。「啫啫(ジュージュー)」と音を立てている土鍋から濃い味付けの鶏肉を頬張り、強烈な香味野菜の香りが鼻を抜けたあたりでキンキンに冷えたビールを飲み干す、この料理の本質はここにある。

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③表面に焼き色がついたら鶏肉を一旦取り出し、下に①の香味野菜を敷いて、上面に鶏肉を配置する。(ここで漬けダレが余っていたらそれをかけ、)さらに米酒(甲類焼酎)を回しがけ、蓋をして5分蒸し焼きにする。広東語ではこれを「」というが、多分もっと水分量を増えた場合「」となる。中華圏では調理法について各地各様の表現があり大変楽しいが、お蔭であまり馴染みのない地域のレシピが少々読みづらいといったことにもなる。冷蔵庫から使用するべき玉ねぎを発見したため、自分はここで軽く炒めた玉ねぎも加えている。

④5分経ったら一度攪拌し、再び5分「焗」する。完成時にどれくらいの水分量とするかは人それぞれだと思うが、自分はこの料理については味濃いめ水分量少なめが好きなので、最後蓋を半開きにして水分を少し飛ばした。仕上げに小口ネギをかけて完成。

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 味は美味い!が玉葱が多すぎ、水分が増えたことで言うほど濃い味にならなかった。しっかり生姜や大蒜、エシャロットが主張してくれているが、生姜はもっと多くてもよかったと思う。エシャロットは生で食うより圧倒的にこちらが美味いと思う。本当に大蒜と玉葱の間の味と食感になって楽しい。次回はタレの分量、特に老抽や蠔油の分量を増やして色や粘りを出していきたいとも思った。今回は白飯と食べたので全然美味しかったが、ビール飲むならもっと暴力的に味と香りがキツい方が良い。

 ミニダッチ、使ってみるとサイズ的にメンテナンスも楽だし、家での調理にも便利だとわかったので、今後もガンガンやっていきたい。まあ、八割方は朝に目玉焼き作る程度になるとは思うけれども。