亞的呼聲 Adiffusion

中華と酒と銭湯と

18時以降自炊していること

 新界は最高という記事です。最近、再び18時から堂食(店内で食べること)が出来なくなったので、再び夜は自炊が増えている。疫情の悪化によっては一層の規制強化も想定されうるのでただただ悲しいが、折角なので外食ではあんまり食べないようなものを作って食べようと考えてながら日々近所を彷徨って食材を見繕っているところだ。結果として食費が抑えられ(この地は基本的に40ドル=600円以上出さないと一食分にならない)、今月はだいぶ節約できているのはいいことではある。

 香港にはもちろん惠康や百佳といった超市(スーパー)もあるが、野菜や肉、魚などの生鮮品を買うのなら断然街市や街中の八百屋、肉屋だ。まず、食品の鮮度が圧倒的に良い。百佳は生鮮品が特に弱い感じがするし、怡和洋行・牛奶公司傘下の惠康でさえ、日によっては蠅の集っているような野菜を平然と陳列していて閉口することがある(その他ブルジョア向けのスーパーについては、全く縁がないのでよく分からない)。これは全く本筋から逸れるが、中国産の食品が怖いということから凡ゆる食品を日本から送ってもらっている駐妻の逸話を聞いたことがあり、まず輸送コストや量によって関税が掛かるという以前に、野菜とか肉とかどうしているんだろう、と思った。果物はともかく、こちらで見かける日本産の野菜は当然ながらどれもイマイチ鮮度が良くない気がする。結果として健康にもあんまり良くないのではないだろうか……

 それにネギ1本、トマト1個から買えたり、魚も鱗やワタを取ってくれたりする手軽さや、名前や食べ方等を尋ねることが出来るコミュニケーションの楽しさでも圧倒的に街市に分がある。まあ、だからスーパーにやる気がないのかもしれないが。スーパーと個人商店がちゃんと住み分けているのは本当に良いことであると思う。

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「無牌小販」であっても誰も気にしない。インディーズの野菜は最高
 そして街市や街角の八百屋だけでなく、この街には「インディーズの野菜」とでもいうべき愛おしいジャンルが存在している。空きテナントの前に日中だけ出店する八百屋、街市の軒下で野菜を売る新界のババア達。

 これらはライセンスの観点からだと多分アウトなのだろうけれど、農家がその余剰産品を持ち込んで金銭と交換する、まさに墟市の原点といった感じでとても好きだ。行政も見逃しているようだし、街市に入っている店とはお釣りの融通などでやりとりがあり、コミュニティになくてはならない存在であることがわかる。

 たとえば嘗ての大埔の太和市、現在の富善街は定期市の日になると近隣から自転車やリヤカーで農産品が持ち込まれ、「車坪」という別名があったそうだ。今も各商店が路上に大きくはみ出していて、往時の風景を偲ばせる。以前大埔に住んでいた時は、早起きして5時くらいに街市のあたりに行くと、社區中心の軒下におばあさんが十数人並んで野菜を売っていた。8時くらいには大方店じまいしていたのが印象的だった。また上水の石湖墟にもこうした根強い需要から街市とは別に農產品分銷點が設置されている。

  新界の農業は元朗の平地地帯(なんと香港にも平野があるのだ)を中心に稲作で栄えたが、戦後は一気に衰微して今に至っている。寧夏から年中新鮮な菜心が送られてくる現在では一層状況は厳しいのかもしれないが、700万居民を擁する大都市の近郊農業として、野菜や畜産、漁業が細々と続けられている。

 近年では若い人の参入も現れているようだけど、香港でも港北に沢山あるような市民農園の形で区画貸ししても良いのでは、と思ったりもする。賃料凄いことになりそうではあるが……*1

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蓮麻坑の邊境禁區手前に残る嘉道理農業輔助會(KAAA)の辦事處建物。嘗て蓮麻坑村の貧農支援を目的として、村はずれのこの地に養豚場が設けられた。

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毛茄(オクラ)単機待ちのババアもいる。1セットに1本赤いのを入れてくれる

 路上で売られる新鮮な「本地」の野菜達。《十年》中のエピソードの一つでは「本地」という語自体が「敏感」になってしまった10年後の香港が描かれていたが、2020年の香港ではまだまだ夏野菜達が艶々と輝いている。

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 海鮮も、以前倉魚(マナガツオ)や烏頭(ボラ)、紅衫(イトヨリ)を記事にしたが、これらの魚は街市に行けば常に新鮮なものが並んでいる。というかこちらのスーパーは海鮮が異様に弱いと思う。街市で買い物できない鬼佬は一生サーモン食ってろという感じでちょっと寂しいぞ。
 香港には大澳をはじめ漁村として有名な場所がいくつかあり、西貢や鯉魚門などには土産物屋や魚を食わせる店が並んでいて、どこか城ヶ島のような鄙びた空気があって好きだ。先日元朗の外れの流浮山に行ったのだが、ここも城ヶ島だったのでテンションが上がってしまった。夜間営業の禁止でレストランはだいぶ打撃を受けているようではあったが……この地の特産であるオイスターソースを購入できた上(裕興蠔油公司)、魚欄(魚市場)では蜆(アサリ)が3斤20ドルという信じられない値段だったのでこれも買ってしまった。というわけで以下はアサリをはじめとして最近の自炊を上げていくだけ。

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アサリの白ワイン蒸し

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揖保乃糸があったので(なんであるんだ)、錦糸卵と花椎茸を作って正しく食べた。

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張天廚の馬六甲娘惹咖哩醬料を使ったチキンカレー。

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端午節の肉粽(詳細はこちら

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水野仁輔『いちばんおいしい家カレーをつくる』(プレジデント社、2017)の欧風カレーを参考に作ったカレー

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Mee Hoon Koay(麵粉糕)、マレーシアのすいとんの作業風景(詳細はこちら)。薄く広く延ばすのがプロ、とのこと

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新界トマトを大量に使った牛肉燴飯(ハヤシライス)

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ミンチ・新界トマト・新界ナスでごつもりパスタ作った。学生っぽい

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新界トマト・新界ナス・新界オクラ・新界生姜・新界ニンニクに新界牛を使った新界夏野菜カレー

 

*1:休閒農場」という類似のサービスがあるらしい